名誉教授メンタリングプログラム

京都大学L-INSIGHTのGPである「名誉教授メンタリングプログラム」(以降、名誉教授メンタリング)では、研究者の先達である京都大学の名誉教授がフェローの目標設定や自己評価に対して、対話を通じた客観的な助言を行います。
この度、総合支援事業の安浦PD、事務局が名誉教授メンタリングの運営の中心である仲野先生、L-INSIGHTフェローの福元健之先生、齋藤美保先生、マリンエリア先生にインタビューを行いました。
※先生方の所属・役職はすべてインタビュー時のものです
名誉教授メンタリングを通して得られた効果や変化
福元健之先生(以降、福元):
私のメンターは、現役で臨床に携わる放射線科医の先生で、これまで印象的なやり取りをいくつも経験してきました。当時、私自身は20世紀前半の結核治療の中で使用されていた光線療法や放射線、X線を使った治療法を研究していました。当時の光線療法は、現代的な観点からはメカニズムの解明が不完全で、有効性が疑われるような仕方で実践されていた節がありますが、当時は非常に重宝されていた治療法であり、臨床的には成果が出ていたとも言われています。
私はこの点について、恐れ多くもがんの放射線医療で活躍されているメンターの先生に話を聞いてみたいと思い、お話を伺いました。メンターの先生は「結核治療のメカニズムがよくわかっていなかった当時に臨床データとして成果が出ているのであれば、治療法として十分利用できる」とおっしゃっていましたが、こうした考え方は私のような歴史研究者にはなかなか持てない発想であるため、非常にためになりました。
また、光は透過性もなく、周辺組織へ与えるダメージも小さいため放射線と比べると非常に扱いやすいことも教えていただきました。文系の研究しか行ってこなかった私だけでは、このように二つの治療法の性質の違いを明確化しながら物事を考えることはできなかったと思います。
そういう意味では、名誉教授メンタリングを通して自分にはない新しい視点から物事をみることができるようになり、論文の執筆にも大きな助けとなりました。

事務局:
名誉教授メンタリングを実際に受ける前に期待していたことと、実際に受けてみての効果にギャップはありましたか?
福元:
メンタリングを実施する前は、会話がかみ合うかどうかがとにかく心配でした。文系の研究者である自分と医師であるメンターの先生の間で会話が成り立たなかったらどうしようと不安でしたが、結果的には全く問題なかったです。メンターの先生は非常にオープンマインドな方で、ご自身でも光線療法のことを調べて私に教えてくださいましたし、むしろ先生の専門である放射線療法のことをもっと知りたいと思い、私がメンターの先生の研究分野に引きずられそうになったこともありました。
また、自分のメンターとなる名誉教授を紹介いただく際には仲野先生をはじめ、L-INSIGHTのプログラムマネージャーである石川先生やほかの先生にもご尽力いただきました。そのおかげでこのような出会いが生まれたと思っておりますので非常に感謝しております。
事務局:
齋藤先生はいかがでしょうか?
齋藤美保先生(以降、齋藤):
私はメンターの先生とのやりとりを通して、精神面や研究に対する考え方が変わったと感じています。メンターの先生は、ガッツがあり、「自分が純粋に楽しいと思える研究をすることで、他の人にも気持ちが伝わる」という考え方のもと研究をされており、研究は社会に広く還元できることが理想なのではと捉えていた私にとって、まさに正反対の研究者でした。
先生のお話を聞くことで、研究に対する考え方が変わり、ハードルが高いと考えていた共同研究にも勇気をもって踏み出すことができました。先生とのやり取りで培われたマインドが、現在インドやオーストラリアの研究者を招いて共同研究を行うことにつながっていると感じています。

事務局:
メンターの先生は修士号・博士号を取得した際に指導いただいた先生だったのですか?
齋藤:
研究室でお世話になった先生の一人ですが、私の主指導を担当してくださっていたわけではありません。ただ、ぜひメンターをお願いしたいと思い、L-INSIGHT事務室にバイネームでリクエストをさせていただきました。
事務局:
マリン先生はいかがでしょうか?
マリンエリア先生(以降、マリン):
メンターは、私にとって研究者としてのモデルケースだと考えています。私のメンターは、私と同じく外国人の先生で、研究面だけでなく、日本での生活についてもアドバイスをいただいています。
メンターの先生と研究テーマ自体は異なるため、研究面では主に研究方法などを指導いただいております。
生活面では、同じ日本で生活をする外国人として、先生が経験してきたことを自分もたどっているように感じるため、アドバイスをいただけて非常に助かります。

事務局:
生活面ではどのようなアドバイスをいただいているのですか?
マリン:
ヨーロッパの生活と日本の生活は全く異なり、ときどき別世界にいるように感じます。日本で生活する外国人には日常的にさまざまな問題があり、私も少しずつ学びながら解決してきました。その中でも、敬語のように相手によって話し方を変えなければならない点は、カジュアルな会話が多いヨーロッパとは大きく異なり、メンターの先生が過去に経験されたことから、私も多くを学びました。また、同じ外国人の先生にメンターを担当していただくことで、母国を離れて生活する中で感じる孤独感がなくなるのも大きな利点です。
通常、日本で新たに生活を始める外国人は、こうした問題に独力で立ち向かい、経験を積みながら少しずつ学んでいくことになります。しかし、私はメンターの先生が、日本で生きる外国人研究者としての経験を共有してくださるおかげで、先人の足跡をたどるように進むことができ、とてもありがたく感じています。
運営目線での工夫点
仲野安紗先生(以降、仲野):
名誉教授メンタリングを始めた当初は、この取組が本当に成立するのか非常に不安でした。メンターとフェローは世代も大きく異なり、研究分野が違う場合もあります。マリン先生のお話にもありましたが、メンタリングでは研究の話だけでなく、精神面やプライベートな話をすることもあります。そのため、人と人との付き合いという観点から、どなたに名誉教授メンターをお願いするかを慎重に考える必要がありました。
しかし、どれだけ慎重に考えてもなお、その先生が実際にメンターになった際にフェローとの間にシナジーが発生するかは未知の領域です。
これまで関わってきて感じるのは、研究分野や学術コミュニティといったアカデミア視点にとらわれないほうが、結果として成功する可能性が高いということです。フェローの先生方は、自分のキャリアの延長線上にメンターがいるとは考えていないことが多く、それで多様性が生まれていると感じます。より幅広い研究分野の先生方をサポートするためには上下関係やテーマの新旧といった枠組みでなく、自分たちは多様なんだ、という平場の考え方が大切だと感じています。
筋書きを決めすぎないことが予想外のシナジーや効果を生む
仲野:
メンターとフェローをマッチングする際には、どのような効果が生まれるか、検討はしますが、実際には予想と異なることが多いです。この予測できない部分こそが、名誉教授メンタリングの魅力だと思います。
マッチングまではできる限り緻密に計画し、マッチング後はオープンマインドで臨む。そして、時には第三者がメンターとフェローの間に入り、関係性を円滑に保つことが重要だと考えています。
たとえ、過去に関わりのあった先生がメンターになった場合でも、フェローの立場からは今更聞きにくい内容や、話すかどうか迷う内容がたくさんあると聞きます。そんな時には、メンタリングがひとつの制度なんだということを改めてお伝えします。制度であるということが安心感につながり、今更聞きにくい内容もオープンマインドで対話できるということもあります。
事務局:
メンターとフェローをマッチングする際、フェローからバイネームでメンターの指名が入ることもあると思いますが、バイネームの指名には何か特別なシナジーや効果を感じておられますか?
仲野:
バイネームでメンターを指名される場合、メンタリングとは異なる間柄に落ち着くケースがあるように思います。
名誉教授メンタリングでは想定された筋書きを超えた効果や変化が生まれることが多々あり、それが本取組の魅力ともなっています。バイネームでメンターを指名され、メンターの活用の筋書きが想定されていると、それを超えるような効果や変化が生まれにくいのかなとは思います。個人的なつながりに閉ざされるなど、制度の利用価値があったのかどうか、判断できないというところです。
事務局:
フェローがメンターを希望する際には、最初から筋書きを立ててバイネームで指名するよりも、ざっくりと条件や希望を設定するだけの方が良い結果につながる可能性が高いものと理解しました。
仲野:
メンターとフェローのマッチングは「ご縁」の要素が大きく、素敵な出会いがたくさん生まれています。本取組によって、これまで同年代や同分野の縦横のネットワークしかなかったところに、異分野かつ別年代という「斜めのネットワーク」が生まれ始めていますので、多くの大学におすすめできる取組です。
安浦寛人PD:
名誉教授メンタリングは、工夫次第で大きなコストをかけずに運営でき、大学全体のネットワーク形成にもつながる取組だと思います。
若手研究者が自身の周辺にとどまらないところで研究ネットワークを形成できる、すごく良い仕組みであり、ぜひ他大学にもマネをしてもらいたいと思いますので、GPとしてぜひ多くの大学に普及できるように取り組んでいきたいと思います。
