産学が幅広く交流できる研究成果エキシビション

名古屋大学T-GExのGPである「産学が幅広く交流できる研究成果エキシビション」(以降、研究成果エキシビションと表記)では、T-GExフェロー・アソシエート・企業アソシエート(以降、T-GEx若手研究者と表記)の研究の加速や成長を目的として、周辺学術機関や周辺企業の関係者等と研究成果を共有して議論を行っています。近年は、参加者範囲を拡大することで、「学術界と産業界の相互理解」、「研究分野や所属機関を超えた新たな共同研究の創出」、「T-GExが開発する研究者育成プログラムの普及」を図る機会としても活用されている取組です。
この度、総合支援事業事務局が研究成果エキシビションについてT-GExのPMである武田宏子先生、T-GEx事務局 首席リサーチアドミニストレーター(URA)の吉田有人様、T-GExフェローの萩尾華子先生、同じくフェローの柘植紀節先生、そしてT-GEx企業アソシエートの澁谷拓未先生にインタビューを行いました。
※先生方の所属・役職はすべてインタビュー時のものです
産学が幅広く交流できる研究成果エキシビションを開始した理由・背景
武田宏子先生(以降、武田):
研究成果エキシビションは、T-GExが「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」に申請した段階から計画されていた取組です。
申請書の作成にあたっては、高等研究院の教員・URA・事務からなるチームで、若手研究者育成に関してどのような取組を行うべきか丁寧に、時間をかけて議論しました。その結果、「先端の科学技術に触れる機会を提供すること」「育成対象の若手研究者の研究の進捗・発展を確認する機会を設けること」「他の研究者から刺激を受ける機会を提供すること」の3点が必須であるとの結論に至りました。
開催形式については、シンポジウムや交流会なども視野に入れて検討を行いましたが、T-GExの特徴である企業や多様な連携機関を巻き込んだ取組にしたいと考えました。そのため、こうした方々が積極的にご参加くださり、若手研究者と交流することができる「エキシビション」という形式を採用することにしました。
歴史を振り返ると、近代化や産業化が進展し、最先端の学術知識や科学技術が日常生活に浸透していった過程において、広範な人々がそうした知識や技術に直に触れ、実際に使ってみる機会であった「博覧会」(エキシビション)が重要な役割を果たしました。こうした先例を参考として、T-GEx若手研究者による研究活動についても、多くの方々に体験していただきたいというこだわりから、現在の「研究成果エキシビション」という形に落ち着きました。

事務局:
ただ研究発表の場を設けるだけではなく、研究内容を多くの方に実感いただき、体験していただくことがポイントになっているのですね。
企画運営の中核を担うタスクフォース
吉田有人様(以降、吉田):
T-GExでは、主要なイベントの企画運営を5名程度の若手研究者からなるタスクフォースで担っていただくことにしており、毎年4月に開催しているT-GExのキックオフミーティングでメンバーを募っています。
研究成果エキシビションの開催についても、タスクフォースのメンバーで当該年度の開催テーマを議論、決定し、プログラムを準備、運営しています。
このように、若手研究者が自ら主体的にイベントの企画運営に参画することは、プロジェクトマネジメントの実践経験になるだけでなく、互いをよく知る交流機会にもなっており、研究成果エキシビションの大きな特徴の一つであると考えています。

当初のビジョンと実際の育成効果
事務局:
研究成果エキシビションを始めるにあたっては、どのような育成効果が出ることを期待していたのでしょうか?
武田:
T-GExでは、「知の『開拓者』スキルフレームワーク」として、知の開拓者に必要な6つのコンピテンシー(高度な専門性、協働力、課題発見力、世界の潮流をつかむ力、出口志向感覚、研究推進力)を定めています。研究成果エキシビションは、これら6つのコンピテンシーを総合的に向上させるものであると当初から考えていました。
しかし、実際に取組を進めていく中で、コンピテンシーの総合的な向上にとどまらず、さまざまな相乗効果が生まれていることが分かってきました。T-GEx若手研究者が交流することにより、お互いの研究を知るだけでなく、そこから刺激を受け、向上し合う関係性が生まれていると感じています。また、参加してくださっている連携企業の方々からビジネスの観点に基づくコメントや刺激をいただくだけでなく、毎年継続して参加してくださっている企業の方々もいることから、T-GEx若手研究者からすると、自身の研究を見守っていただいているという感覚も生まれています。その結果、研究成果エキシビションという機会そのものがT-GEx若手研究者の成長を支える取組として機能している側面もあるのです。
このように、参加している方全員が互いにポジティブな影響を与え合う環境が形成されている点も大きな特徴であると感じています。
吉田:
研究成果エキシビションには、全分野の若手研究者が参加するだけでなく、企業からも関係者が参加します。当初は、分野や立場の異なる研究者や企業の方々に若手研究者の研究をきちんと理解してもらえるだろうかという懸念がありました。
しかし、実際に取組を始めてみると、分野間の壁や企業とアカデミアの垣根をそれほど意識する必要はなく、参加者全員が楽しくディスカッションできることが分かりました。互いに刺激し合い、楽しみながら意見交換することで、最後には全員がポジティブな気持ちで会を終えることができる、活気にあふれた取組となっていることを、最近は強く実感しています。
企画やマネジメントを実践的に学ぶ
事務局:
研究成果エキシビションに参加したことで生まれた、ご自身の研究活動における変化や効果を教えてください。
柘植紀節先生(以降、柘植):
研究成果エキシビションを通して、大きなイベントをどのように組織し、マネジメントするのかを学ぶことができた点が、私にとって最も大きな収穫であったと感じています。私は2024年にタスクフォースの一員として、ショートプレゼンテーションの取りまとめを担当しました。
T-GExフェローに採択される以前は、学会やイベントに参加し、自身の研究成果を広く発信することに力を注いできましたが、フェローに採択されたことを契機に、研究の流れを生み出すような大きな学会やイベントを、自ら企画したいと考えるようになりました。一方で、イベントや学会を企画したいと漠然に考えてはいたものの、具体的にどのような行動を取るべきかについては、まったくイメージできていませんでした。
そのような中で、タスクフォースとしてエキシビションの運営側を経験したことにより、どのような行動を取ればイベントや学会を企画し、運営することができるのかを、具体的に知ることができました。この経験を活かして、エキシビション終了後には、以前から開催したいと考えていた天文分野の国際研究会に挑戦し、実現することができました。
研究会をゼロから企画するにあたっては、エキシビションの運営ではカバーしきれなかった部分にも直面し、非常に大変な面もありましたが、URAや事務の方々が質問や相談に丁寧に対応してくださり、さまざまなトラブルを乗り越えることで、無事に研究会を開催することができました。
このように、新たな挑戦を行い、それを達成できたという経験は、今でも自分の中で大きな自信となっています。

事務局:
タスクフォースとして活動されていた際に、自身の研究活動とタスクフォースとしての活動はどのようにバランスをとっていたのでしょうか。
柘植:
実は、自身の研究活動とタスクフォースのバランス調整について、苦労したという記憶はあまりありません。定期的にURAや事務の方々とミーティングを行っていたため、いつまでに何をやらなければならないのかが、かなり明確でした。
必要なタスクの全体像を把握したうえで、無理のないペースで作業を進めることができていたため、自身の研究時間を圧迫することもなく、URAの皆様にも多くのサポートをしていただき、過去のイベント企画で蓄積されてきたノウハウを存分に生かしていただいたおかげで、無駄なく、効率的に作業を行うことができました。
その結果として、自身の研究活動とタスクフォースの業務を両立することができたのだと感じています。
研究成果エキシビションを通して得た4つのこと
萩尾華子先生(以降、萩尾):
私はこれまで研究成果エキシビションに3回参加してきましたが、そこでの経験から多くのことを得ることができたと考えています。
1つ目は、企業の視点を得ることができたことです。私は、学術と社会貢献の両立を目指し、魚の餌の研究に取り組んでいますが、研究成果エキシビションでは、企業の方々から、私が開発した餌によって得られる利益や開発規模、今後の研究スケジュール、特許に関することなど、多くの質問やご助言をいただきました。その経験が、特許申請を目指すきっかけにもなっています。
2つ目は、毎年、研究成果や進捗を見ていただくことで、励ましを得ることができたことです。企業の方から「来年の成果を楽しみにしているから頑張ってね」と声をかけていただき、3年間にわたりエキシビションで励ましていただけたことが、自身の研究活動を続ける大きな活力となりました。
3つ目は、T-GEx若手研究者との交流を通じて、情報交換を行うことができたことです。お互いに多忙であるため、日常的に集まる機会は多くありませんが、エキシビションに参加することで、近況報告を通じて刺激し合ったり、実験技術や研究費の申請について情報交換を行ったりすることができました。実際に、自分が知らなかった研究費を教えてもらい、申請することができた結果、新たな研究費の獲得につながりました。また、印象的な研究発表やプレゼンテーションを行っている方もおられるので、それらの工夫を自身の発表に取り入れて活かすこともできています。
最後に4つ目は、URAや事務の方々に直接お会いできることです。普段は直接お会いする機会の少ない方々に、温かいご支援に関して直接お礼を伝えたり、励ましの言葉をいただいたりすることで、自身の研究に対するモチベーションの向上につながっていると感じています。

まずは参加してみてほしい
事務局:
研究成果エキシビションが今後、他大学にも普及していった暁には、多くの若手研究者が参加することになると考えられます。このような研究成果エキシビションに初めて参加される研究者の方々に向けて、アドバイスがあればお伺いできますでしょうか。
萩尾:
皆さんお忙しいとは思いますが、可能な範囲でスケジュールを調整し、できるだけ参加したほうがよいということをお伝えしたいです。アカデミア向けの研究発表と、企業の方々などに対する研究発表とでは、求められる伝え方が異なると感じています。そのため、「どのようにすれば端的に、かつ面白く伝えられるか」を考えることを通して、プレゼンテーション力をさらに向上させることができると思います。
また、先ほども少し触れましたが、企業の視点を知ることができる点も大きな魅力です。その視点を取り入れることで、その後の研究の発展につなげることができると感じています。新たな視点を獲得することをモチベーションとして、まずはぜひ参加してみてほしいです。
自身の研究を見つめなおす
澁谷拓未先生(以降、澁谷):
研究成果エキシビションをきっかけに、自身の研究について、これまで以上に深く考えるようになりました。私は企業の研究者として、社会実装や製品・サービスへの展開を見据えた研究を推進してきましたが、研究成果エキシビションを通して、改めて自身の研究が学術コミュニティの中でどのような位置づけにあり、どのような学術的意義を持つのかを、より俯瞰的に捉えるようになりました。
特に、先生方からのご意見を通して、自分の研究を個別の成果としてだけでなく、学術的な連続性の中でどのような価値を持ち、将来の研究基盤や新たな知の創出にどのように貢献し得るのかを考えるようになったことは自身にとって大きな変化であったと感じています。この経験により、社会実装を目指す企業研究と、学術的価値の創出とを往復しながら研究を深化させることの重要性を改めて認識しました。
タスクフォースの一員として特別講演の取りまとめを担当しましたが、その過程で、第一線で活躍されている研究者と直接コンタクトを取るという貴重な経験をさせていただきました。また、研究者一人ひとりの研究成果だけでなく、研究そのものをどのような視点で捉えるのか、特別講演をどのようにすれば参加者にとって価値のある時間につなげることができるのかといった、より大きな視点で物事を考える有意義な経験になったと感じています。

事務局:
T-GExでは、研究成果エキシビションの開催までに複数回の対面イベントを行い、研究者同士の関係性を構築する工夫をしていますが、他大学では、そのような余裕がない場合もあります。エキシビション前の対面による関係構築は必須だとお考えでしょうか。また、事前の対面イベントによって得られた効果があれば、具体的に教えてください。
澁谷:
研究成果エキシビションは、研究成果を発表する場であると同時に、他の研究者の研究に直接触れ、新たな視点や気づきを得ることができる貴重な機会であると感じています。事前に研究者同士の関係性を構築しておくことで、より主体的にポスター発表を聞きに行くことができ、活発な質疑応答や議論へとつながることを実感しました。そのようなことから、エキシビション開催前に研究者同士の関係性を構築しておくことには大きな価値があると考えています。
一方で、研究成果エキシビションの本質的な価値は、事前の関係性の有無に関わらず、立場や分野を超えて、自身の研究や考えを他者に伝え、相互に理解しようとする姿勢そのものにあると感じています。そのため、事前に関係性を構築していなかったとしても、研究成果エキシビションを実施すること自体には大きな意義があり、十分な価値があると考えています。
積極的な交流を生む仕掛け
事務局:
ポスター発表は盛り上がるものと盛り上がらないものの差が大きいような印象がありますが、異なるバックグラウンドを持つ研究者同士で活発な交流を生むために行っている工夫などがあれば教えてください。
武田:
ポスター発表においては、会場内でどの研究者をどの位置に配置するかといったレイアウトについて、毎年試行錯誤を重ねています。
また、個人的な意見としては、研究成果物を実際に展示することも大きなポイントであると考えています。ポスター発表後には、どのポスター発表が素晴らしいと思ったか参加者による投票が行われますが、実際に研究成果物を展示している研究者が票を集めているという印象があります。その点からも、成果物を直接見せる工夫は、参加者の関心を高めるうえで効果的であると感じています。
URAと事務による支援が手厚いことも、研究成果エキシビションの大きな工夫点の一つです。たとえば、ポスター発表をどのような形式で行うかについては、毎年タスクフォースとURAとで長い時間をかけて議論を重ねています。URAや事務の方々が長時間にわたり伴走支援をしてくださることで、より良いものになっていると強く感じていますので、この点はぜひ強調させていただきたいと思います。
吉田:
研究成果エキシビションを始めた当初は、ポスター発表のみを実施していました。しかし、参加者の方々から「どのようなポスター発表が行われるのかを事前に知っておいたほうが、交流し易い」というご意見をいただき、2回目以降はポスターセッションの前にショートプレゼンテーションの時間を設けています。ショートプレゼンテーションでは、各研究者が自身の研究内容を1分間で紹介しています。エッセンスが詰まった分かり易い説明を聴くことで、確かに参加者は興味のある研究を事前に把握しやすくなっており、その後のポスター発表でより活発な交流ができていると感じています。
また、武田先生もおっしゃっていましたが、発表の順番やポスターの配置についても、かなり工夫しています。関連性の高い研究をまとめて配置することで、自然に会話する機会が生まれ、交流が深まるよう仕掛けづくりを行っています。
さらに、文字情報だけのポスター発表では内容の理解が難しくなりがちなため、図やイラストを多く取り入れるなど、視覚的な工夫をしていただいている点も、活発な議論につながっている大きな要因と考えています。
萩尾:
視覚的な工夫という点では、多くの研究者がPCを持参し、研究に関する動画を見せながら発表を行っています。私自身も、魚の視覚認知行動に関する研究を発表する際にPCを使用しました。実は、魚は皆さんが思っている以上に賢く高度な行動ができるのですが、口頭で説明するだけでは、その点をなかなか理解してもらえません。
そこで、PCを使用して魚の高度な行動の様子を撮影した動画を流してみたところ、オーディエンスの反応が非常に良く、理解も深まっていることを実感しました。このような動画などを活用した視覚的な工夫は、研究内容を直感的に伝えることができ、ポスター発表全体の盛り上がりにもつながっているのではないかと感じています。
澁谷:
URAや事務の方々によるサポートが非常に手厚いことが、研究成果エキシビションの大きな支えになっていると感じています。私たち研究者が休憩している間も、事務局の皆さんは研究者が少しでも活動しやすいよう、本当に細かいところにまで気を配り、準備を進めてくださっていました。
ポスター発表はもちろんのこと、ショートプレゼンテーションやコーヒーブレイクといった一つひとつの場面が充実したものになっているのは、URAや事務の皆様のきめ細やかなご対応のおかげであると、心から感じています。
