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世界をめざす研究活動指標(AWRA)

世界をめざす研究活動指標(AWRA)

広島大学HIRAKU-GlobalのGPである「世界をめざす研究活動指標(AWRA)」(以降、AWRAと記載)では、若手研究者の研究活動を三つの大項目(研究発表、研究費受入、国際的活動)に分類してフェローの活動状況全般の経年変化を可視化し、さらに、国際的なプレゼンスと影響力に強く関連する実績のみ(研究発表実績と国際活動実績の一部)をまとめることで育成期間における国際的なプレゼンスと影響力を可視化しています。

この度、総合支援事業事務局がAWRAについてHIRAKU-GlobalのPMであるTony Z Jia先生、実施責任者である相田美砂子先生、HIRAKU-Global事務局の篠原萌子様、天野祐子様にインタビューを行いました。

※先生方の所属・役職はすべてインタビュー時のものです

世界をめざす研究活動指標(AWRA)を開始した理由・背景

事務局:

どのような理由からAWRAが開始されたのか、またAWRAが開発された背景などを教えていただけますでしょうか。

相田美砂子先生(以降、相田):

十年ほど前から、国立大学では教員の個人評価が導入されています。それにより、多くの大学では個人評価の結果が教員の給料などに反映されるようになっています。一方で、「研究者としての活動実績を、本人が自覚する」という趣旨が必ずしも認識されていないのではないか、と思われる状況も見受けられます。

本来、研究者における個人評価は、研究者自身が自身の活動をきちんと振り返ることができるものであり、そしてそれによって、今後の自身の活動の進め方を考えることができるようなものであるべきだと、私は考えています。

AWRAは個人評価のための仕組みではありませんが、若手研究者の育成に資するものとして、研究者の個人評価の本来あるべき姿を意識しつつ、研究者としての研究実績だけに特化して、それを可視化するものを作る必要があると考え、HIRAKU-Globalではこの取組を始めました。

相田美砂子先生(広島大学 特命教授 / HIRAKU-Global 代表機関実施責任者)

事務局:

育成期間における国際的なプレゼンスと影響力の可視化のため、AWRAの中でも「研究発表実績」と「国際活動実績」に関する項目を抽出し、AWRA-coreとしてまとめられておりますが、AWRA-coreの構想は最初から計画されていたのでしょうか、もしくはAWRAを始めてから取組の中で生まれたものなのでしょうか?

相田:

AWRAの項目は、日本の国立大学の教員であれば、研究に関連した実績として意識しなければならないことを、ほぼすべて網羅しています。その中から、特にHIRAKU-Globalとして「世界で活躍できる若手研究者になるために、ぜひ力を入れてほしい項目」を抽出し、AWRA-coreとして設定しています。

ですので、単に「研究発表実績」と「国際活動実績」だけを抽出した、というようなものではなく、世界で活躍できる研究者になるために特に重視すべき点を明確化する目的で、AWRAの初期構想の段階からAWRA-coreを定めることを決めておりました。

AWRAにおける各項目の重みづけ

事務局:

AWRAにおける各項目の重みづけがどのようになされているかを教えてください。

相田:

AWRAは、自身の研究活動全般を網羅する指標ですので、どうしても性質の異なる研究活動を含むことになります。例えば論文の執筆と海外への渡航は、まったく性質の違う研究活動であり、本来は比較できるものではありません。

そこでAWRAでは、「100万円の外部資金獲得」を100ポイント、「単独で論文を1本執筆すること」を100ポイント、を重みの基準として定義します。その他の研究活動については、その基準と比較して、労力や研究活動としての価値を考慮しながら、重みを設定します。同じ論文の執筆であっても、代表著者として執筆するのか、共著者として執筆するのかによって重みが変わります。

これにより、本来であれば比較が難しい、性質の異なる研究活動を、定量的に比較することを可能としています。もちろん、その活動が「論文を1本執筆すること」と比べてどれほどの価値を持つのかについては、人によって考え方が異なります。そのため、重みづけは、多くの先生方の意見を伺い、議論を重ねて決定しました。

事務局:

AWRAにおいて日本語での書籍の執筆が100ポイントとなっているのに対して、英語での執筆だと200ポイントと2倍の重みがついているのはなぜなのでしょうか。

相田:

分野の違いによって、英語で論文や書籍を執筆する機会は大きく異なります。また、英語での執筆活動は、日本語で執筆する場合と比べて、多大な労力と時間を要します。
そのため、日本語と英語の執筆活動を同等に扱ってしまうと研究活動を正しく比較することができなくなることから、AWRAではポイントに差を設けています。

英語での執筆活動は労力だけを考えると日本語の数倍となる可能性もあります。しかし、その差をそのままポイントに反映してしまうと、極端に英語での執筆活動の評価が高くなってしまうことから、これもまた正しい比較ができているとは言えません。そこで、多くの先生方と議論を重ねた結果、日本語の2倍にあたる「200ポイント」として設定することにしました。

また、AWRAの項目表には、重みとなるポイントが空白になっている箇所がいくつかあります。これも、実情を反映した比較を実現するための工夫です。これまでに想定していなかった種類の研究活動があった場合に、それに合わせて適切な重みを設定するため、あえて空欄としているのです。

AWRA項目表でポイントが空欄となっている箇所

事務局:

書籍の文章量などによってポイントは変えていないのでしょうか。

相田:

文章量によるポイントの調整は行っておりません。
重みづけの調整はやろうと思えばどこまでもできてしまいますが、現実的ではないため、どこかで線引きをする必要があると考えています。

コンソーシアムメンター制度とのシナジー

事務局:

AWRAの内容はコンソーシアムメンターにも共有され面談などでも活用されるかと思いますが、AWRAとコンソーシアムメンターのシナジーが発揮された事例、AWRAがあったからこそコンソーシアムメンターにて取り組むことができたことがありましたら教えてください。

相田:

通常のメンター制度では、その研究者が所属する研究室の教授などがメンターを務めることが多いです。しかし、HIRAKU-Globalのコンソーシアムメンター制度では、研究者に「より俯瞰した視点」からの意見を伝えるため、メンティーの研究者とまったく面識のない、また、時には専門分野の異なる研究者がコンソーシアムメンターとなります。

多くの場合、そのような研究者がメンターとなると、メンティーである研究者が実際にどのような研究活動を行っているのか把握することが非常に難しくなります。しかし、Achievement CardとAWRAを参照することで、メンティーである研究者の研究活動をしっかりと把握したうえでメンタリングができるようになります。これが、AWRAとコンソーシアムメンター制度とのシナジーであると考えています。

当初期待していた育成効果と実際の育成効果

事務局:

本取組を開始した当初に期待していた若手研究者に対する育成効果を教えてください。また、期待していた育成効果と実際に確認された育成効果にギャップがありましたら教えてください。

相田:

当初期待していたAWRAの育成効果は、研究者が自身の研究活動業績を客観視すること、でした。

しかし、HG教員との個人面談でAWRAについて率直な感想を伺ったところ、「AWRAの項目に重みがついていることで、HIRAKU-Globalが力を入れてほしい研究活動が明確になっていてよかった」という、当初想定していなかったフィードバックをいただきました。つまり、取り組んでほしい活動に高い重みをつけておけば、若手研究者は、積極的にそれに取り組む、ということのようです。当初、私たちにはAWRAを通して研究者に力を入れてほしい研究活動を示すというような意図はありませんでした。その声を聞いたとき、HIRAKU-Globalとして研究者に重点的に取り組んでほしい活動を伝えるためにもAWRAを活用できるのだと気づきました。

事務局:

つまり、他の大学がAWRAを取り入れる際に重みづけを変更することでその大学が研究者に力を入れてほしいと感じている研究活動を明確化し、研究者を期待する方向に導くことができるのですね。

相田:

そのとおりです。ですので、他の大学にAWRAを取り入れていただく際には、HIRAKU-Globalとまったく同じ項目を設定する必要はありません。むしろ、その大学の目的やビジョンに対応した項目を新たに作り、適切に重みづけを行うことで、若手研究者の研究活動を期待する方向へ促すことができるのです。

本取組を効果的に実施するためのポイントやTips

事務局:

本取組を取り入れてみたいと考えている他大学に向けて、本取組を効果的に実施するためのポイントやTipsがあれば教えてください。

相田:

AWRAの数値だけが独り歩きしないように気を付ける必要があると思います。AWRAは研究者の研究活動を定量的に分析するための指標ですが、数値という形で示されるため、どうしても研究者間で数値を比較したくなる場面が出てくると思います。

しかし、AWRAは研究者間に優劣をつけるための指標ではありません。あくまでその研究者自身が、それまでの研究活動を振り返り、今後の研究活動に活かすための指標です。ですので、その点を常に意識した運用が必要になると感じています。

Tony Z Jia先生(以降、Tony):

私はアメリカから来た研究者ですが、アメリカと日本の大学では評価方法や、重要とされる研究活動が異なっていると感じます。ただし、これは決して日米の差だけではなく、日本国内の大学同士を比較しても、それぞれの状況は大きく異なると思います。大学の規模、在籍する学生や研究者の数、研究に使える時間、受けられるサポートの種類など、その状況は千差万別です。

そのため、AWRAのように研究活動を分析する指標を作る場合には、まずその大学が置かれている状況を正確に把握し、それに対応したものを作る必要があります。例えば、日本ではしばしばTop10%論文のようなハイインパクト論文数が年々減少していることが問題視されます。しかし、だからといって、すべての大学がハイインパクト論文の数を最大化することを最優先に考えるべきだとは思いません。

確かに、そこに一定の需要があることは理解できますが、大学の置かれている状況によっては、それを実現することが非常に難しかったり、実現できたとしても長い時間を要する場合もあります。さらに、研究者や大学を取り巻く環境は刻一刻と変化していますので、それぞれが自分たちの状況に合った取組を行うべきだと考えています。

Tony Z Jia(広島大学 教授 / HIRAKU-Global PM)

事務局:

先ほども少しお話に上がりましたが、AWRAをそのまま使うのではなくその大学にあった指標に調整することが必要ということですね。

Tony:

その通りです。HIRAKU-Globalでは国際的な研究活動に重きを置いていますが、例えば教育に重きを置いた大学であればAWRAの中の教育にも関連する項目に重みを設定するべきだということです。

篠原萌子様(以降、篠原):

AWRAを作成するためのデータを集める際には、明確な基準を定め、その基準にのっとったデータを集めることがポイントです。研究者の研究活動がAWRAのどの項目に該当するのかを明確にしておかないと、イレギュラーな研究活動が発生した場合に正しい評価ができなくなってしまいます。
そのため、あらかじめ明確な基準を設定し、その基準に沿ってデータを整理し、活用する必要があると感じています。

また、データを活用する際には、大学の事情をよく理解していることも必須です。ですので、単にデータの扱いに長けている方に分析や整理を担当していただくだけでなく、大学の事情を熟知している方と協力しながらデータを管理し、活用していくことが大切だと考えます。

篠原萌子様(HIRAKU-Global事務局 研究員)

相田:

データの分析に関しては、AWRA以外の場面でも同じようなことがいえると思います。昨今のITブームの中で、情報系に精通した人材は非常に重宝されますが、企業では「IT知識があるが専門知識がない人材」と「IT知識はないが専門知識がある人材」のどちらを選ぶかが、しばしば天秤にかけられます。

しかし、個人的には、これは二者択一の問題ではなく、最終的にはIT知識と専門知識の両方が合わさることで、物事はより良い方向に進んでいくと感じています。つまり、IT知識しかない人材には専門知識を、専門知識しかない人材にはIT知識を教育し、そのバランスは異なっていても両方の知識を備えた人材を育成することが重要です。そして、有する知識のバランスが異なる、複数の人間が協力することによって、新しい取組ができるようになります。

事務局:

何事も一人が持つエッセンスでは完結せず、複数の人が融合することで、初めてよいもの作ることができるということですね。

天野祐子様(以降、天野):

AWRAに利用するデータは膨大になりますので、適切な管理も重要なポイントとなります。必要な情報が生じた際に、正しいデータへ迅速にアクセスできれば、分析の効率化につながると思います。そのため、AWRAを始める際にはデータサイエンスの要素を取り入れるなどして、自大学のシステムに適したデータの管理環境を構築することも、あらかじめ考慮していただければよいと考えています。

天野祐子様(HIRAKU-Global事務局 教育研究補助職員 )